デュラン・ランティンクが描く「構築と演劇の新しい身体」2026年秋冬コレクション

ジャンポール・ゴルチエの2026‑27年秋冬オートクチュールは、デュラン・ランティンクによる二度目のコレクションとして、メゾンの遺伝子を現代へと鮮やかに接続した。

テーマはMadame Masculinity(マダム・マスキュリニティ)──女性性と男性性を同時に演出する造語が示す通り、男性服のコードを女性的に転換し、権威やジェンダーの象徴を“演じられる記号”として再構築するアプローチがランウェイ全体を貫いた。

ランティンクはゴルチエの伝統である挑発、ユーモア、ジェンダー越境を尊重しつつ、それらをより構築的で彫刻的な方向へ押し広げ、服が身体を形づくり、身体が服を演じるという相互作用の緊張感を提示した。

デザイナーと文脈:前作からの継承と表現の転換

ランティンクの前作は、露出とユーモアを通じてジェンダーの流動性を大胆に示した。下着の外出化や身体の露出を用いた挑発は、観客に直接的な刺激を与え、ゴルチエの伝統的な反逆精神を継承していた。

今季はその延長線上にありながら、表現の重心が「露出」から「構築」へと移行している。前作が身体をさらけ出すことでアイデンティティを問いかけたとすれば、今季は服そのものの構造を可視化し、身体の輪郭を再設計することで問いを深める。技術的なテーラリングと彫刻的な造形が、遊び心と挑発性をより洗練された形で受け継いでいる。

テーマ深掘り:Madame Masculinity の意味

Madame Masculinity(マダム・マスキュリニティ)は、単なる言葉遊びではない。Madame(女性)と Masculinity(男性性)を組み合わせたこの造語は、女性が男性性を演じる、あるいは男性的記号を女性的に着こなす行為そのものをテーマ化している。

タキシード、ピンストライプ、ネクタイといった“男性的記号”は、ここでは力や規律の象徴ではなく、演技の小道具となる。ランティンクはそれらを解体し、再配置し、女性の身体へと接続することで、ジェンダーが固定的な本質ではなく社会的に演じられる役割であることを示す。読者にとっての核心は、服が単に身体を覆うものではなく、身体の振る舞いを規定し、物語を紡ぐ装置であるという視点だ。

技術的分析:テーラリングと構築美

今季の見どころは、技術と美学が一体となった“構築”の表現にある。代表的な手法は以下の通りだ。

  • 二重構造:外側にクラシックなオーバーコート、内側にウエストコートを内蔵することで、外見は伝統的でも内部は彫刻的にウエストを絞る。結果として生まれる砂時計のシルエットは、コルセット文化をフェティッシュから建築的美学へと転換する。
  • スプライス(衣服の融合):ボンバージャケットとブレザースカートを縫い合わせるなど、異なる階級コードを衝突させることで新たな身体像を生む。レイヤーは時間や記憶の積層を示唆する。
  • 構造の外化:芯地やパッドなど本来見えない要素を外側に露出させ、内部構造自体をデザイン要素にする。尖ったピークや円筒状のパッドは、服を“着るもの”から“彫刻”へと変換する。

素材の選択も巧みだ。ベルベットの柔らかさと硬質なパッドの対比、プリーツの流動性と重厚なウールの対照が、視覚的な緊張を生む。仕立ての精度が高いからこそ、これらの実験的な造形が成立している。

マレーネ・ディートリヒとタキシードの系譜

ディートリヒは20世紀のスクリーンでタキシードを纏い、男性的装いを女性の表現手段として取り込んだ先駆者だ。彼女が愛したタキシードは、単なる服ではなく「中性的な力の装置」であり、ジェンダーの境界を曖昧にする象徴であった。

ランティンクはその系譜を今季の出発点に据え、タキシードの要素を女性的な曲線や構築へと接続することで、歴史的記号を現代へと翻訳した。タキシードはここで役割を与える小道具となり、Madame Masculinityの核を成す。ディートリヒの中性的な魅力は、黒と白の強いコントラストや大胆なプリント配置を通じて、誘惑と反抗の二面性として再演される。

ルック別物語:主要ピースの詳細解説

黒のオーバーコート(権威の転倒)

クラシックなメンズコードを踏襲しつつ、内蔵構造でウエストを絞ることで、権威の硬さを溶かす砂時計のシルエットを生む。歩行による揺れが演劇的な余韻を残し、Madame Masculinityの入口を示す。

ヌードコルセット+ブラトップ(透明性の装置)

シアーなコルセットと巨大なネックアクセサリーが身体の重心をずらし、身体の虚構を暴く視覚装置として機能する。透明性は露出ではなく問いかけだ。

チェックのテーラリング(アーカイブの変形)

黒白チェックを用いたテーラリングは、90年代的ユーモアを想起させつつ、ウエストのねじれや肩の浮遊感で再構築される。引用ではなく変形としてアーカイブを扱う姿勢が明確だ。

煙を吐く顔のプリントドレス(映画的クライマックス)

背中から立ち上る白い煙を伴うプリントドレスは、マレーネ・ディートリヒの影を直接的に引用したピース。煙は誘惑と反抗を同時に示し、ショーの演出性を象徴する。

白いマネキンボディ(人間と人工物の境界)

木製マネキンのような身体表現は、身体と人工物の境界を曖昧にし、服と身体の相互演出を極限まで抽象化する。

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