2024年3月にAlessandro Michele(アレッサンドロ・ミケーレ)がValentino(ヴァレンティノ)のクリエイティブディレクターに就任されると同時に25年同ブランドを導いてきたPierpaolo Piccioli(ピエールパオロ・ピッチョーリ)の退任が発表された。
入れ替わりの激しいハイブランドにおけるデザイナーという地位において創業者の家族では者ないが25年という長い期間を務めるのは非常に稀である。
退任の発表からお無沙汰がなかったが、Demna(デムナ)が空いていたGucci(グッチ)の席を取り後任としてBalenciaga(バレンシアガ)のクリエイティブディレクターに就任された。
Pierpaolo Piccioli(ピエールパオロ・ピッチョーリ)は非常に謙虚で控えめなデザイナーである。
ハイブランドのクリエイティブディレクターを務めていてもイタリアのティレニア海沿いにあるNettuno(ネットゥーノ)という故郷に家族と静かに暮らしている。

1989年にローマのヨーロッパデザイン学院を卒業したイタリア人デザイナーはFendi(フェンディ)でアクセサリーデザイナーとしてキャリアをスタートさせた。
同期に同じ学校に通っていたMaria Grazia Chiuri(マリア・グラツィア・キウリ)がいて運命的な出会いを果たした。
10年間Fendi(フェンディ)で過ごしたあとMaria Grazia Chiuri(マリア・グラツィア・キウリ)と一緒にValentino(ヴァレンティノ)のアクセサリー部門強化のために引き抜かれた。
二人のデザイナーの才能が真に開花したのが2008年、当時Valentino(ヴァレンティノ )のクリエイティブディレクターを務めていたAlessandra Facchinetti(アレッサンドラ・ファッキネッティ)の後任として任命されてからである。

2013年にヨーロッパの地から遠く離れた上海で特別なファッションショーを開催した。
Valentino(ヴァレンティノ)のイメージカラーであり中国の国旗の色である赤で統一されたコレクションである。
鮮やかなものから深紅なものまで色彩が豊かでシックな衣装が洗練された朱色のランウェイと調和された。

2014年秋冬オートクチュールショーは会場全体に緑のツタで覆いつくされて神秘的な庭園のようでした。
19世紀にイギリスで活躍した初期ルネサンスを規範としたラファエル前派時代を彷彿とさせる女性画家であるElizabeth Siddal(エリザベス・シダル)とSibylla Palmifera(シビラ・パルミフェラ)から着想を得たコレクションである。
白黒をメインとして神秘的な模様をした植物のプリントの衣装や刺繍が施さされた柔らかなレースなど優雅で力強さが魅力である。

2015年秋冬オートクチュールショーは古き良き美学に敬意を表し古代から都を受け継いできたローマで開催された。
イタリアのアーティストであるPietro Ruffo(ピエトロ・ルッフォ)がデザインしたシンプルでスタイリッシュな舞台は古代ローマ帝国時代の遺跡であるForo Romano(フォロ・ロマーノ)を現代的に再解釈して構築した。
コレクションにおいて黒、ダークグリーン、ワインレッドの色彩の衣装に輝かしい金のアクセサリーを合わせてローマ帝国らしい高貴で神秘的なルックが観客を魅了した。

2016年にMaria Grazia Chiuri(マリア・グラツィア・キウリ)がDiorのクリエイティブディレクターに移籍したことで8年間のコラボレーションが終わりを迎えた。
Pierpaolo Piccioli(ピエールパオロ・ピッチョーリ)は変わらずValentino(ヴァレンティノ)での指揮を執り世界的なトップブランドへと変貌させた。
2018年と2022年に二度にわたりブリティッシュ・ファッション・アワードのデザイナー・オブ・ザ・イヤーを受賞するなどさらにクリエイティビティに磨きがかかった。

2018年秋冬オートクチュールショーはフランスのパリにあるロスチャイルド館で開催されまるで魔法にかかったような美しい作品の数々が登場した。
生地、色彩、刺繍など自由にアプローチされた衣装で18世紀の貴族、ギリシャ神話などがモチーフとされた。
大胆な鮮やかな色使いとボリューム感の衣装、精巧なインターシャや刺繍がイタリア人デザイナーの才能を見せつけた。

2022年秋冬ファッションショーではValentino(ヴァレンティノ)のイメージカラーが赤からピンクに変貌した。
Pierpaolo Piccioli(ピエールパオロ・ピッチョーリ)がパントン・カラー研究所と共同でValentino(ヴァレンティノ)のために鮮やかな色彩のデザイナーの名前を由来としたピンクPPを開発した。
会場全体がピンクに包まれた独創的な不思議な空間で衣装もピンク一色のデザインで統一感のある非常に個性的なショーであった。

2022年秋冬オートクチュールショーはローマのランドマークのひとつであるスペイン広場の階段で行われた。
Valentino(ヴァレンティノ)の創業の地あるローマで開催されたコレクションは原点回帰がテーマであり時代を超えた美しさや価値を表現したコレクションである。
Pierpaolo Piccioli(ピエールパオロ・ピッチョーリ)が学生時代にスペイン広場でのファッションショーを目撃してからこの場所での開催を憧れていた。
同様の経験を若い世代に受け継ぐためにも120人のファッションとアートの学生をショーに招待していた。

2023年秋冬オートクチュールショーはパリ近郊のシャンティイ市にあるルネサンス時代の建造物であるシャンティイ城で壮大に実施された。
アラベスク模様の刺繍が施された高貴で上品でクラシックな衣装がある一方でシンプルを追及した新しい試みも観察された。
Kaia Gerber(カイア・ガーバー)がオープニングを飾ったシンプルな白シャツとブルーのヴィンテージジーンズのようなルックに衝撃を感じた。
ジーンズに見えるパンツはシルクで制作されており80色のインディゴで染めた小さなパール入りビーズで全体が刺繍されたものでクチュールにふさわしい作品だ。
