京都東寺でのDior2025フォールコレクションとローマの美しい庭園があるヴィラでのDior2026クルーズコレクションで有終の美を飾りMaria Grazia Chiuri(マリア・グラツィア・キウリ)がDiorのクリエイティブディレクターを去ることが発表された。
イタリア出身のデザイナーは自国の代表的なブランドであるFendiとValentinoで活躍したあと2016年からはDiorのウィメンズ部門のクリエイティブディレクターとしてDiorでの長い船旅が出航した。
Diorで初めての女性クリエイティブディレクターであったこともありフェミニズムの思想を強くコレクションに反映させてきた。
芸術に熱心であり世界中の女性アーティストやデザイナーとのコラボレーションによるコレクションショーが記憶に残っている。
彼女の初のコレクションである2017年春夏ファッションショーでは”We Should All Be Feminists”(「私たちは皆、フェミニストであるべきだ」)という書かれたシンプルな白いTシャツが有名だ。
ナイジェリア出身の女性作家であるChimamanda Ngozi Adichie(チママンダ・ンゴズィ・アディーチェ)の作品からの引用で力強いメッセージが話題となった。


アメリカ出身のフェミニスト美術家の先駆者であるJudy Chicago(ジュディ・シカゴ)とのコラボレーションで2020年春夏オートクチュールショーを開催した。
会場であるロダン美術館の庭園に女性の立場や役割についての言葉が刺繍された巨大なペストリーが飾られ最も目立つ中央のものには”What if Women Ruled the World?”「もし女性が世界を支配したらどうなるでしょうか?」)という問いが印象的である。

2020年クルーズ・ファッションショーはモロッコのマラケシュで開催されて地元の織物と陶器を専門とする職人によるデザインを採用した。
アフリカ系アメリカ人のMickalene Thomas(ミカリーン・トーマス)やデザイナーのGrace Wales Bonner(グレース・ウェールズ・ボナー)などがデザインを担当した作品も登場した。



2021年クルーズ・ファッションショーはデザイナーの父の故郷であるプーリア州にあるレッチェという小さな町で実施された。
イタリアの現代芸術家であるビジュアルアーティストのMarinella Senatore(マリネッラ・セナトーレ)は町の大聖堂に幻想的なイルミネーションを装飾した。
イスラエルの振付家Sharon Eyal(シャロン・エヤル)がこの地域の伝統的な踊りであるピッツィカにインスピレーションを得たダンスを監督してショーで披露された。

2023年春夏ファッションショーではイタリアのフィレンツェの貴族出身でフランスのパリの景観にも影響を及ぼしたカトリーヌ・ド・メディシス王妃(1519-1589)をテーマとした。
かつてフランスを統治した王妃は芸術活動に熱心でありテュイルリー宮殿を含む様々な建設計画の立案と監督した。
テュイルリー宮殿はルーヴル宮殿の隣に位置していたがパリ・コミューンの内戦の際に1871年に消失したが現在は美しいテュイルリー庭園として面影を残している。
ショーの会場はパリを拠点に活動するアーティストがEva Jaspin(エヴァ・ジョスパン)がテュイルリー庭園にかつて存在していたグロット(人工洞窟)を再現した場所で行われた。

2023年秋冬ファッションショーでは北欧神話で登場する戦場で戦士した者たちを天界の宮殿バルハラに案内する女神ワルキューレをモチーフとした巨大なモニュメントが会場を埋め尽くした。
ポルトガルをルーツとする現代アーティストJoana Vasconcelos(ジョアナ・ヴァスコンセロス)が手がけた作品は戦争の時代を経験した力強い女性をイメージしている。
フランスの有名シャンソン歌手であるÉdith Piaf(エディット・ピアフ)とJuliette Gréco(ジュリエット・グレコ)は第二次世界大戦におけるレジスタンス運動に積極的に参加してパリ解放に貢献した。
ブランドの創業者であるChristian Dior(クリスチャン・ディオール)の妹であるCatherine Dior(カトリーヌ・ディオール)もレジスタンス運動に参加して一時は強制収容所で過酷な日々を過ごしたが戦後は花屋として安静の生活を送った。

2024年秋冬オートクチュールショーではコレクションの数か月前に亡くなったアメリカ出身の画家、作家、アーティストであるFaith Ringgold(フェイス・リングゴールド)に敬意を示して会場が彼女の作品で覆われた。
彼女は積極的にフェミニスト運動と反人種差別運動に参加して有色人種、女性といった比較的に弱いと思われいた立場でも芸術家として立派に活躍できる土台を築いた。
